仙台高等裁判所 平成8年(行コ)14号 判決 1998年1月27日
福島県郡山市大槻町字中ノ平五九番地
控訴人
佐藤武
福島県郡山市大槻町字中ノ平五九番地
控訴人
佐藤留治
右両名訴訟代理人弁護士
安藤裕規
同
安藤ヨイ子
同
齋藤正俊
同
大峰仁
福島県郡山市堂前町二〇番地一一
被控訴人
郡山税務署長 菊地進
右指定代理人
黒津英明
同
粟野金順
同
小坂義博
同
佐藤正春
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人佐藤武に対して平成三年五月一五日付けでした同控訴人の平成元年分所得税の更正のうち、分離長期譲渡所得の金額三四〇万一二五二円、納付すべき税額四〇万四二〇〇円を超える部分、過少申告加算賦課決定及び重加算税賦課決定を取り消す。
3 被控訴人が控訴人佐藤留治に対して平成三年五月一五日付けでした同控訴人の平成元年分所得税の更正のうち、分離長期譲渡所得の金額一三六八万四二五〇円、納付すべき税額二六八万一〇〇〇円を超える部分、過少申告加算税賦課決定及び重加算税賦課決定(ただし、いずれも審査裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
4 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要
一 本件事案の概要は、次のように加えるほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
二 当審における控訴人らの主張(3は控訴人武の主張)
1 控訴人らに対し、仙台国税局の職員による調査が行われ、本件各処分は、これに基づいて行われたのであるから、その通知書には国税通則法二八条二項、三項所定の附記がされるべきところ、この附記はなかった。したがって、右附記を欠く通知によって行われた本件各処分は違法である。
2 控訴人武は本件(1)及び(2)の土地を、控訴人留治は本件(3)及び(4)の土地を、鈴木と星を仲介人として政寅に売却し、政寅は本件(1)及び(3)の土地を惣助に、本件(2)の土地を一士に、本件(4)の土地をレヂデンスにそれぞれ転売したものである。政寅は、控訴人らからの買受価格と転売価格との差額の一部を取得し、大半は鈴木と星喜助が折半して取得した。被控訴人は、この転売価格を基準に控訴人らの譲渡所得の金額を算定しているのであり、これを前提とした本件各処分は違法である。
3 控訴人武は、控訴人留治が昭和六一年七月に郡山信用金庫から三〇〇〇万円を借り受ける際に保証人になっており、当時、控訴人留治には返済可能な資力があった。控訴人留治は、その後事態が悪化して右借入金の返済に窮するようになったため、昭和六三年八月、負担軽減のために郡山市大槻農協から三八〇〇万円(郡山信用金庫からの借入金元金とその利息、遅延損害金の総額に相当する金額)を借り受けたものである。この新しい借り入れは、実質的には郡山信用金庫からの借入金について、借入条件を有利に変換するための借り換えである。このような場合、所得税法六四条二項の要件は、当初の郡山信用金庫からの借入時を基準にして検討すべきであり、同条項の適用が認められるべきである。
第三当裁判所の判決
一 当裁判所も、控訴人らの本訴請求は、いずれも理由がないものと判断する。
その理由は、次のように加えるほか、原判決「事実及び理由」欄の「第三争点に対する判断」における説示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一三枚目表一行目から三行目にかけての( )の中を「これは、同法七五条二項が、国税庁又は国税局の職員によってされた旨の記載がある書面によって処分された場合、国税庁長官又は国税局長が処分をしたものとみなして国税庁長官又は国税局長に対して異議申立てをすることができるとしていることから、不服申立先を決するために必要な事項となるために記載事項とされたものであり、処分理由の明示を定めたものではない。」に改める。)。
二 控訴人らは、控訴人らに対する本件各処分に際し、国税庁又は国税局の職員による調査があったにもかかわらず、本件各処分の通知書には右調査に基づくものである旨の附記がなかった旨主張する。ところで、原審及び当審における控訴人佐藤留治本人の供述、弁論の全趣旨によれば、控訴人らに対する税務当局による調査の際、仙台国税局の職員が被控訴人の職員に同行したことがうかがわれるが、右控訴人佐藤留治の供述によれば、その後、仙台国税局の職員が同控訴人に対し、「これからの調査は郡山税務署の橋本という方に引き継ぎますのでよろしく」と述べたというのである。そうすると、結局、控訴人らに対する調査は、郡山税務署の職員による調査として終了したものであり、仙台国税局の職員は、単にその調査の途中において控訴人らのところに赴いたことがあるにとどまるのであるから、国税局の当該調査に基づいて本件各処分が行われたものではないことが明らかである。したがって、この点に関する控訴人らの主張は理由がない。
三 本件土地(1)ないし(4)の売買については、控訴人武が本件(1)の土地を三四八二万円で惣助に、本件(2)の土地を一九四七万円で一士に、控訴人留治が本件(3)の土地を六一八万円で惣助に、本件(4)の土地を一七八二万五〇〇〇円でレヂデンスに直接売り渡したものと認めるべきことは、原判決の認定判断のとおりである。
控訴人らは、右各買主に対しては、政寅から転売され、政寅のほか、鈴木や星ら仲介人が転売利益を取得した旨主張するが、そのとおりであるとすると、控訴人留治は、本件(1)及び(3)の土地について、自らが売り渡した代金額の半額を超える転売利益を上乗せした金額を惣助から受け取り、また、本件(2)の土地についても同様の転売利益を上乗せした金額が自己の同席する場で支払われたことになるのであり、このような多額の転売利益を取得しようとする転売者や仲介人(政寅も鈴木も本件各土地の売買に関与するまでは控訴人らとの面識はなかった。)がそのようなことを許容したこと自体が不自然である。そして、控訴人留治は、右各買主による代金支払いの直後、その金額に見合う金額を債務の弁済や貯金に充てていること、鈴木に対して仲介手数料が支払われた点を除くと、政寅、鈴木、星らが右のような多額の転売利益を取得した形跡がうかがわれないことなどの事情にかんがみると、控訴人らにおいては、各買主の支払った金額相当の収入があったものといわざるを得ず、当審における証拠調べの結果を併せ検討しても、これらの経緯を控訴人らの主張に沿って説明することができる事情はうかがわれない。したがって、この点に関する当審における控訴人らの主張は理由がない。
四 控訴人武について、所得税法六四条二項が適用されないことについては、原判決の認定判断のとおりである。
控訴人武は、所得税法六四条二項の適用の有無を決するに当たっては、控訴人留治が昭和六一年七月に郡山信用金庫から借入れた当時の事情を基準にすべきである旨主張する。しかしながら、原判決の認定のとおり、昭和六三年八月の農協との契約は、単に郡山信用金庫からの借入金の借り換えにとどまるものとは言えず、控訴人留治の経済的事情、特に求償の可能性については、昭和六一年七月当事とは全く異なる事情の下に締結されたものである。さらに、控訴人武の保証債務の処理や本件(1)ないし(4)の土地の売却に関する関係者との交渉などの行為は、控訴人留治が控訴人武に代わってこれを実行しており、控訴人武は、当初からこれらを控訴人留治に全面的に委ね、求償債務も免除している(その時期は明確でないが、求償権を行使しようともしないまま免除していることが明らかである。)のである。これらの事情にかんがみると、控訴人武は、当初から主債務者である控訴人留治に対して一方的に利益を供与する意思であり、結果的に求償権が行使できなくなったというものではないといわざるを得ない。したがって、控訴人武について、所得税法六四条二項の適用を認めることはできない。
五 以上によれば、控訴人からの本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がない。
よって主文のとおり判決する(平成九年一〇月一七日当審口頭弁論終結)。
(裁判官 畑中英明 裁判官 若林辰繁 裁判長裁判官安達敬は、転補のため、署名押印することができない。裁判官 畑中英明)